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「あれ……?」
「ここにある本すべてに付喪神様の記憶が描かれていて、私がいらっしゃった付喪神様の本を手に取る。それではこの部屋ではとても収納するスペースはありませんし、不可能です。ですから、このように……」
少女が本に手をかざすと、にじみ出るように懐中時計の本と同じような絵が浮き出てきた。男性が手紙を書く姿や、女性が彼から万年筆を受け取る様子が描かれている。
「この本は確かに万年筆の記憶ですが、直接付喪神様の記憶が描かれているわけではありません。私が付喪神様から受け取った記憶をイメージとして白紙の本に反映させています。どうやらこんなにも付喪神様が集まってしまうとこの建物に――そして付喪神である私にも力が宿ってしまうようで」
どこかさみしさが含まれているように感じる言葉。
「気づけば、建物が霊体として現実と乖離してしまったのです。ここに住んでいた人間は実体としての建物に残り、私は霊体となったこの建物と共にあの世でも現実でもない狭間に放り出されていました」
にわかに信じられるような話ではない。それは少女も理解しているようで、信じてもらうために話しているわけではないようだった。
「ですが、骨董品店として存在していた時の付喪神様を集める性質は変わらず、むしろ強くなってしまっているようで、由奈さんのように時々付喪神様を連れた方がいらっしゃいます。私は、かつての主人と同じように付喪神様を集め続けることを選びました。さらに力を得た私は、この本棚に囲まれた部屋を創り出し付喪神様の記憶を記録し始め……ここに付喪神様を連れてきてくださった方にお渡ししています」
少女がしていることは素敵なことだ。少なくともここに迷い込んだ人や付喪神にとっては悪いことはないように思える。でも、彼女にとってはどうなのだろう。
「あなたは……これからもこの店を続けるんですか?」
「付喪神様がいらっしゃる限り、私はこの役目を果たす義務があります。だって、私はこの付喪神専門店の付喪神なのですから」
静かに、しかし揺るぎない意志が伝わってくる。
「辛くは、ないんですか?」
「〝辛い〟だなんて感情は付喪神には必要のない感情です。私たちは大切にされてきたものから生まれることができるもの。そもそも負の感情を抱くことはありえないのです」
そう言ってから、この話は終わりとでも言うように万年筆の記憶が書かれた本を棚に戻した。
「説明させていただいた通り、ここは不安定な場所ですから長居はよくありません。話をしてしまったのは私のほうではありますが……懐中時計、こちらでお預かりしてもよろしいでしょうか」
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