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「結婚しないのが選択なら、子供ができないのは運命なのかもしれません」
「子供の場合も、作る選択があると聞いていますよ」
熊木田は盃を置いて麻里亜の言葉を待った。
「夫婦の細胞から受精卵を作り、出産まで面倒見てくれる医師がいるそうです」
「やはり、噂は本当なのですな。どこの病院ですか?」
熊木田は身を乗り出した。今日の会合には、それを聞きたくて出席したようなものだ。
「武上総理のお子さんは、その病院で生まれたそうです」
「武上総理が……」
女性初の総理大臣となった武上梨咲が子供を産んだのは半年前のことだ。突然出産するという発表があって、2週間ほど入院していた。それまで妊娠したという話もなく、腹も入院直前に僅かに膨らんだように見えただけだった。
47歳と言う高齢出産は話題になり、公務があるのに無責任だと野党は批判した。それがたった2週間で公務に復帰したものだから、今では武上超人と呼ぶ者もいる。
一方、口の悪い者は、代理出産ではないのかと噂していた。
「とんでもない費用が掛かったと聞きました。そのために党の資金にまで手を付けたとか」
「木元さんは、その病院を御存じなのですか?」
「いいえ。あくまでも噂話ですから」
「その噂話。どなたから聞かれました?」
「それが思い出せないのです」
「そうですか……」頼りにならないおばさんだと心中で毒づき、盃をあおった。
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