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「優秀な博士を紹介しましょう。でも希望に沿えるかどうかは分かりませんよ。相手は権力におもねることを嫌う研究者ですから」
自分の行動に保険を掛ける武上に、熊木田は「もちろんです」と応え、現金を入れた封筒を取り出して運転席の秘書に渡した。その間、武上は紫色に光る東京スカイツリーを見ている。心ここに有らずというアピールだ。そんなことで金の授受が公になった時に、法の裁きから免れることができるのかどうか……。
「これは献金ではありません。情報をいただいたことに対する情報提供料です」
「情報提供料?」
「ビジネスの世界では普通のことです」
「そうなの?」
熊木田の態度に武上は不思議な顔をした。
「ただし、所得申告は必要です。もっとも、総理が申告を忘れても私は関知しませんし、私も費用には計上しませんから、ご安心を」
「面白い人ね」
武上は笑い、スマホを手にした。
「もしもし、千坂博士……、順番待ちは分かりますが、一度会っていただけないかしら?これからの研究にも協力を得られると思いますし……。ええ、厚労省には私からも要請しますから……」
熊木田は、電話の相手が協力する見返りに、厚生労働省に対して何らかの圧力をかけてほしいと言っているのだろうと聞いていた。
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