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翌週、熊木田は車に小百合を乗せ、藤沢市の住宅街にある千坂朱音の家を訪ねた。
「築60年と言ったところか」車を降りた熊木田は見上げる。建物は大きいが、どう割り引いてみても研究所には見えなかった。
インターフォンのボタンを押すと「どうぞ」という女の声がした。
ドアを開けるとジーパンにTシャツ姿のベビーシッターが2歳ぐらいの女の子と並んで立っていた。
「コンニチハ」女の子は片言でいった。
「千坂博士はいらっしゃいますか」
熊木田がたずねる。
「私が千坂です」と、目の前の女が応えた。
熊木田は失望した。目の前に立っているのは、まるで大学を卒業したばかりの娘に見えたからだ。
「失敗したとお考えですね。引き返すのも熊木田さんの自由ですよ」
滅多に動揺することの無い熊木田が、気持ちを読まれて動揺した。繕う言葉が見つからない。
「お世話になります」
夫を押しのけて前に出た小百合が深々と頭を下げた。
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