継ぐ者

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熊木田は会議が終わってから、麻利亜と夕食を共にした。 「経済諮問会議、いかが思われます?」 「終わっていますね」麻利亜がぴしゃりという。 「こんなことでは日本の再生どころか、維持さえ危ういでしょう。結局、オリンピックでも震災でも、日本人は変わらなかった」 「老人たちは経済でなく、文化と精神の問題を議論しています。そもそも、現状でも生活に困らない人々が集められているのだから、問題意識に欠けるのもやむを得ないわけです」 「世界が変わり続ける中で、日本だけが変わらずにいようとすることに無理があります」 「いっそ、鎖国でも提案しましょうか」 麻利亜は苦笑いを洩らし、熊木田が同調する。 「個別の案件を取り上げたら利害対立ばかりです。その中で国益を検討できるのが私たちだと思うのですが……」 麻利亜は言うと、瞑目した。 「木元さんは立派ですよ。老人たちに向かっていかれる。私など、すっかり部外者を決め込んでいる。恥ずかしい限りです」 熊木田は本音を口にした。もっとも、恥ずかしい限りと言ったことは嘘だ。 「世界的には人口が増えているのに、日本は減少している。人口の減った国が繁栄した例はありません」 「私も子供が欲しいのですが、こればかりは神からの授かりもので……」 「熊木田さんは、結婚がおそかったのですか?」 「結婚したのは30の後半でしたが、恵まれませんでした。木元さんは?」 「私は、ひとり者です。結婚よりも仕事を選びましたから」 麻里亜は指輪のない左手を、ひらひらと振って見せた。 「これは失礼しました」 熊木田は左手をテーブルの下に隠す。 「そんなに気を使わないでください。私が自分で選んだことです」 麻利亜は、ほほと笑った。
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