幸せの断面

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幸せの断面

 ――こっちの駅まで来てくれたら、会うで。  昇平は、端末のツイッター画面に表示された文字群を、少し複雑な気持ちで見詰めていた。「こっちの駅」と言われているのは、滋賀県の近江八幡駅で、昇平の住む富山県からは第三セクター鉄道とJRを乗り継いで三時間あまりである。会ってくれるのは嬉しいが、まだツイッターでしか話したことのない間柄での諒承は、自称まだ三十路初めの独身女性とはいえ、その素性があまり気高くないことを物語るものであり得る。しかし、昇平は四十路独身男の気晴らし旅行という目的も同時にあった。彼女にかこつけて、未だ見ぬ異郷に旅するのも一興かもしれなかった。  ――いいの? じゃ、今度の日曜にでも、会いに行くよ、さくらちゃん。  ――ありがとうな。楽しみにしてるで、昇り龍さん。  じつは、昇平たち二人は、まだハンドルネームしか知り合っていなかった。     
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