第2章 共同作業

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ここでは一つの作業を一時間ごとにローテーションで交代する。婚約者の背中から唐突にひょっこりと顔を出した男は僕達に挨拶するタイミングを伺っているように数回駝鳥のように細い首を上下に揺らしていた。見ない顔だ。僕はその病的に貧相な顔色を持つ肉付きの乏しい男があの時嗚咽していた新人に違いないな、と考えた。彼はくすんだ肌質と切れ長の目の下に深いクマを持っていて、眼孔が窪んでいるような感じだった。男は僕達と同じ作業着を着て同じような風格の条件を揃えているのにも関わらず、滅法貧弱で心細い心持ちがした。婚約者は僕への態度とは打って変わって貧相で見窄らしい男を親密な友人のように僕達に紹介してすっかり打ち解けた様子だった。男は相変わらず首をヒョコヒョコ伸ばしたり引っ込めたりしながら僕達に名を名乗ったが、見掛けによらずしっかりとした意思の強そうな声色だった。 僕は彼女と並んで狭くいつも冷たい温度を持つ通路を歩きながら、「あの男、妙だったね」と呟いた。 「とても貧弱そうね」 「あいつにここが務まるとは僕は思えない。ひどく精神が弱そうで軟弱そうだったろ、きっとあいつはそのうち猫達に愛着が湧き始めて、泣きじゃくってここを飛び出すんだろうなあ」と僕は言った。彼女はそれに対して何の興味も示さず、僕達が次に担当する選別室の扉を無言で開いた。それは檻のようにかたく閉ざされていて不躾な犬を飼う鉄格子に似ていた。僕は選別の作業が一番気が滅入る。暗く閉ざされた窓のない一室に猫達がぎっしりと犇いて一斉に威嚇される気配がする。生きた猫達の、縋るような鳴き声…大抵の猫は人に懐いておらず野生特有の敏捷さを持ちすばしっこく逃げ惑っているが、こちらが動かない限り腰を低くしたまま見詰めてくる用心深く賢い奴もいる。僕達は引っ掻かれることも噛み付かれることもよく慣れていたが、中には狭い額を脛あたりに擦り付けてノドを鳴らしてくる人懐っこく愛想のあるものもいる。僕はそれにはひどく気が滅入ってしまう。
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