第2章 共同作業

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彼女は酷く取り乱した様子で病気の雛が死の間際に見せるあの儚く喉元を引きつらせるような感じで喘いだ。僕は室内の暖房にすっかり身体中を温められて汗ばんでいたが、冷たい光の粒がこめかみから、或いは背中中を薬缶の側面のように汗ばませた。殺したんだな、と僕は決心して低く静かに言った。工場を自分のモノにするために殺したんだな。 それから彼女は静かに啜り泣いて丸めた背中をうさぎの脚気のように身震いさせた。僕は狼狽と怒りに声を震わせ、自分が如何に健全的な思考を持ち非道な精神を持たないことを思い知ったように正義に溢れる心持ちだった。 「僕はあいつのことを一般のまともな人間だとは思えない。人間のするようなことじゃない。僕はあの男が許せない、なんて卑しく自己中心的で最低なクズなんだ。僕は許さないぞ、許すべき人間じゃない」 「私、警察に話そうと思っているのよ」 彼女の背はひどく縮み上がったように小さく見えた。彼女は泣き腫らして鼻先を赤っぽくさせていて、微かなソバカスをマスクの下でよく目立たせているのだろう、と僕は考えた。僕達は狭い獣臭い一室に小鼠のように群がり、身を隠すために穴を掘り続けている小動物のような生活をする彼女を連想させていた。 「そんな男を野放しにできない。君が怯えている必要はない」 と僕はしっかりと力強く言った。猫は数匹僕達の側に寄り添い集っていて、それ以外の者は暗闇に幾つも目だけを蛍のように光らせながら僕達をジッと警戒していた。 「信じてくれる?だって、都合の良い話しでしょう」 彼女は控えめな声で言い、僕はすかさず彼女が冷静である内に決心させてしまいたかったので、急かすような早口で、「もちろんだよ。僕は前々からあの男が怪しいと思っていたんだ」とそそっかしく言った。脅威的なあの男の存在が消えてくれることは僕にとって大変快く好都合なことだったので、僕はさっさとそうしてしまいたかった。僕は欲望と目的に忠実なエゴイストだった。
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