第1章 猫の缶詰め

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それからというもの彼女の交際相手はずっと変わらず僕の上司であるが事あるごとに嫌がらせをされる日々が続いていて、今ではすっかり僕と婚約者は犬猿の仲なのである。とにかく、彼女の婚約者が彼女に対して異様な執着があり、勿論僕もその事件をきっかけに彼女に近付こうとは極力思わなくなったし、他の彼女を意識していた同僚も全く僕と同じようだった。だが、こうして時にシフトの関係で彼女とチームを組まされることもある。僕は長い間自分の中で燻っていた感情、それが悪性の痼りのように自分に影響しているのを静かに感じるものの、それが彼女に発揮されることは無かった。 彼女は猫を器用に実に短い間で捌きながら、突発的に小鳥の癇癪のように高く笑い声を立てた。僕は痩せっぽちの猫の首と領の間を掴みながらチラリと彼女を見た。 「貴方、私と組む時いつもキョロキョロしてるよね。班長が怖いんでしょう?」 彼女は悪戯っぽく笑い、僕を肘でやんわり小突いた。当然だよ、と僕は言ってやりたかった。僕は暴力的で気性の荒い幼稚な君の婚約者を恐れない時はないんだ、彼はいつまた君と僕の関係性を妬んで僕をこの猫たちのように切り開いて、缶詰めにしようとしてくるのではないかと僕は堪らなく不安なんだ、と僕は声を潜めて嗄れた声で言った。彼女は緩まったゴム手袋の端を引き上げながら釈然とした顔付きで男らしくないのね、と呟いたので、僕はムッとして次のように言った。
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