第1章 猫の缶詰め

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「君はいいよなあ、女というだけでいつも僕たちのような荒々しい競争を免れてばかりいる。あの気の狂った婚約者との挙式はいつなんだ?君も将来あの日の僕のように、暴力に打ち拉がることがないことを心から祈るよ」 「あら、あの人、貴方が思うほど感情的ではないのよ。それにもう時期、社長になる人よ」 彼女は僕の嫌味を全く根に持つ素振りを見せず、かえって朗らかに微笑みながらそう告げたので僕の方が心気臭く根暗な男のような気になって幾分不快だった。彼女の中では僕はさほど重要な立ち位置ではなく、僕の小動物の威嚇のような攻撃はさっぱり彼女に届かないのだ。 「社長?そんなはずがあるものか。ここの会社は立ち上げてまだ間も無いし、現在の社長が最高の立ち位置を落ち落ち手放して彼に譲るはずがないよ。企業をはじめるのだって、時間も金もかかるだろ」 「だってあの人、数日前から行方不明でしょう?」 「それはそうだけど、不謹慎だなあ」 「彼はこの可愛らしい猫たちがニャアニャア鳴いて懐いてくるのに、こんな姿でコンベヤーに流れてくるのが耐えられないと前から言っていたのよ。私だって毎日この猫たちが狭いミキサーの中で犇いてニャアニャア泣きじゃくる声を聞くと、心が貧しくなって、つらいのよ」
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