忘れられない愛の唄

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広瀬里丘(ひろせ りく)は三姉弟のトップだ。 勉強は苦手だが、運動と子どもが大好きな宇深(うみ) 運動は苦手だが、音楽の才能がある蒼良(そら) 三年ずつ歳が離れた可愛い弟たちと、愛情深い両親に囲まれて、穏やかに、時に賑やかに暮らしている。 目前に控えた教育実習に向けて教科書や手引書にかぶりついている宇深は、苦手を努力と根性でなんとかしてみせる情熱の持ち主であるし。 持って生まれた運動神経こそ諦めたものの、音楽で生きていきたいと努力を重ね、17歳にしてメジャーデビューの権利を勝ち取った蒼良。 可愛い自慢の弟たちに比べて、自分はなんと平々凡々なことか。 単に「面白そう」という理由で心理学を専攻し、もう少し資格も取ってみたいからと大学院に進学した。 ちょこちょこボランティア活動をしながらのんびりと過ごしているだけの、当たり障りのない日常。 それがほんの少しだけコンプレックスで、かといって何かするわけでもない──── 「リク姉」 「ん?」 不思議とよく響く声で呼びかけられ、里丘はふっと顔をあげた。 論文を手にソファへ座ったことまでは憶えている。いつの間にか自分は眠っていたのだろうか、論文は1ページもめくられていない。 「ごめん、勉強の邪魔した?」 「ううん、平気」 問題ないことを証明するようにぱたんと文献を閉じてみせると、末っ子の蒼良がぱたぱたと近付いてきた。参考書のページを開いて、恥ずかしそうにはにかむ。 「数学わかんなくて」 「私文系だよ?『未来の理科教師(ウミ)』に聞いたら?」 「ウミ兄はだめ。指導案を前に寝落ちしてたから」 「あー……お疲れ様だねぇ」
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