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それなら、と恋愛の先輩である弟は破顔した。
「そのひとが笑顔かどうか、辛くないかどうか考えたり、自分のことを考えてくれたら嬉しいって想ったり、そういうことなんじゃないのかな」
「自分のことを、考えて……」
その言葉を聞いた瞬間、気持ちがしぼむ音が聞こえた気がした。
それが聡い弟にも伝わってしまったらしい。怪訝そうにこちらをのぞき込む。
「なんかワケあり?」
「うーん……」
なんと言えばいいのか。私は言葉を探す。
「考えてもらうもなにも、あの人は私のことを知らないからさ」
「電車で会うひとに一目惚れでもしたわけ?」
「ちがうよ。それならまだ望みがあった」
ますます怪訝そうな顔をする蒼良に、私は自嘲を含んだ笑顔を向けた。
一目惚れなら、まだいい。少しずつ距離を縮めていけばいいのだから。
だけど、私とあの人との距離は、決して縮まらない。
私の生まれたばかりの恋は、その直後になかったことにされるのだから。
「あの人と私は、いつだって『はじめまして』なんだよ。次の日には、全部リセットされてしまうんだ……」
私はひとつため息をつくと、情けない声色で、弟に懇願した。
「ねぇソラ。姉さんのどうしようもない恋バナ、聞いてくれる気、ある?」
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