クテンは苦悩していた。

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 クテンが踊りを止めてしまったら、この世界は“大変な事になってしまう”のに。 「クテン? 嘘だろ?」 「いいや、大マジだ。僕はもう、踊らない」  クテンの意志は固かった。  やがてクテンの生み出す丸を受けなくなった世界は、変質を始めた。  木々や草の成長は止まる事を知らず、天の果てまでぐんぐんと伸びていく。《文章》の中の人は皆、巨大化したり、目玉や口が増えたりと、異様な生き物となってゲラゲラ笑っている。建物はパースが狂ったようにぐにゃりと歪んでのたうち回りながら伸びていく。  この光景が更に異様なのは、トウテンの踊りによってそれぞれの物体の色彩だけは明瞭なまま変質しているのだ。境目ははっきりしているので、混じり合う事もなく、ただただぐちゃぐちゃと入り乱れていく。ひたすら異様であった。  そして消えていくはずの文章が消える事なく蓄積するようになった結果、出来上がったあらゆる物によって、いびつな形の地面は急上昇していく。 「クテン!」 「イヤだ! 僕は踊らない! 見ろよ、この世界! 自由だ! 文章が死ぬ事もない!」 「こんなの、ただの異常な世界だ!」 「それでも良い! 殺すよりはずっと良い!」     
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