クテンは苦悩していた。

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「良いと言った。……己の手で己の息子を処罰など、させないでおくれ」  クテンはハッと気付き、再び強く後悔した。己が許されようとして、同じ過ちを繰り返す所であったのだ。  完神は、呟くように話し出す。 「私はな、この世界を愛しているんだ。最初は私だけの寂しい世界だった。見える限り、何もない世界だ。そこに二神族が生まれ、お前達が生まれ、私は本当に嬉しいんだ。  私一人にこの世界をどうこうする力はもう無い。だが、良いんだ。皆がいて、世界が無限に広がっていく。  やがて私が必要とされなくなる時も来るだろう。その時まで、お前達と共にいさせておくれ」  クテンとトウテンは、改めて完神の顔を見て驚いた。あちこちに穴が空いている。顔だけではない。体中、あらゆる箇所に穴が空いている。  クテンとトウテンが悲しげにそれを見上げていると、完神はそれに気づき、優しく微笑んだ。 「失われた漢字もある。二神族の中にも、消えていった者達がいる。世界は常に変容し、この世界も常に同じ形ではない。それは文字とて同じ事。  だが、だからといって、全てに意味が無かった訳ではない。それぞれが役割を持って生まれ、必死に役割をこなし、役割を終えて消えていった。それだけだ。     
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