クテンは苦悩していた。

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 完神が生み出す世界は、この広大無辺の白地の世界を埋め尽くす事など想像も出来ぬ程小さな物であった。大海のように思えた《文面》は、今にも消えてしまいそうな水たまりのようで、実際僅かな拡大と縮小を繰り返していた。完神が足す事で増え、そして徐々に消えていく。その繰り返しであった。  完神から溢れる文字は「漢字」のみであった。 「というのがそもそもの始まり。ここまでで問題ある?」  トウテンは僕の心の引っかかりを割り出すべく、神話の始まりから話し始める。 「ある訳ないさ、ある訳ないとも」  僕ははっきりと宣言する。そう、世界の始まりの部分という意味で起点ではあるが、そこが問題なのではないのだ。  完神様は今もおわす偉大な神様だ。完神様がおられなければこの世界は存在しなかったし、つまり僕らも存在しない事になる。それでなくとも、僕らのような下っ端にすら優しく接してくださる。お優しく、慈悲深い、そんな素晴らしい完神様に不満など抱いた事は一度たりとてない。 「そうだろうな。あの方に不満があるとかほざいたら、僕がぶん殴ってやるところだった。 それならこの続き……あぁ、まあ、ここからの部分に問題があるのは分かるけどさ」  苦笑いを浮かべながら、トウテンは神話の続きを語り始める。  ある時、完神の身から二つの種族が分かたれていく。 一つは浜螺元名(ひんらがんな)神族。一つは貫多間那(かんたかんな)神族。  やがて彼らも《文章》を作り始めた。完神同様、行為そのものが《文章》となる。     
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