クテンは苦悩していた。

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 例えばここにある《文章》。木々の《文章》なのだが、トウテンによって境目は明瞭になったものの、まだ動物のようにうねうねと暴れている。そこに丸が付く事で『木々』としての存在を確定し、動かなくなる。その内、萎れて枯れるように、消えていってしまう。  クテンの役割は、《文章》の終わりを確定させ、世界に固着させるものであった。  この景色を見る度に、クテンの心に苦い物が広がる。クテンは、この光景が好きではなかったのだ。    トウテンの役割によって、世界は華やかになる。クテンの役割によって、世界は活動を止め、やがて消えていく。  生と死。まるで対照的なのだ。  世界を殺し続ける行為。クテンには、とても耐えきれない行為だった。  それでも、自身に課せられた役割なのだと自分を言い聞かせ、辛い目にあっても堪え忍び、死の光景を眺めて苦しみながらも己の役割を果たし続けてきたのだ。  クテンの苦悩はここにある。クテンは、これ以上(文章)を殺してしまいたくなかったのだ。  ふと、クテンは踊りを止めた。  隣のトウテンはそれに気づき、踊りながら声をかける。 「クテン? 疲れた? まだ踊っていなければ、《文章》が大暴れしてしまうよ」  クテンは答えない。黙って俯いている。  しばらくの沈黙の後、トウテンはもう一度問いかけた。 「クテン? いい加減しないと怒るよ?」 「怒ればいいじゃないか。僕はもう、止めた」  トウテンは、目をぱちくりとさせた。クテンは一体何を言っているんだ?     
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