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その日、美咲の目に飛び込んできたのは、怪奇の二文字だった。
朝七時半。いつもなら、この時間は芸能関係のニュースをしているはずなのに、テレビはずっと青いビニールシートのかかった一軒の家を映し続けている。
母も父も、義弟の隼までもが台所に勢ぞろいし、その三人が三人ともテレビに釘付けになっていた。
現場の女性リポーターが険しい顔でマイクを握り、スタジオにいるキャスターたちの質問に答えている。
「傷口がないんですか?」
「はい。検死の結果、被害者の奥村さんの胸には一切傷がないことがわかっています」
「それなのに、心臓がなくなっていたんですよね?」
「はい。奥村さんの横に転がっていたとのことです」
隼が口笛を吹き、ひゅーと気の抜けた音がテレビの音を裂く。
「これは事件なのですか?」
「まだ、断定されていません。警察は事件と事故の両方から捜査をしていくとのことです」
ぷちり、と音がし、テレビの電源が切られた。
母がリモコンを握りしめている。父は新聞を広げ、コーヒーを飲み出した。
「あれ? 美咲じゃん。今日は早いお目覚めで」
隼が目ざとくこちらに気づき、中学指定のジャージ姿で振り返ってくる。
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