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 小学校を卒業し、私立中学に無事合格した我が家の期待の星は、日夜、野球に取り組んでいる模様だ。 「あんた、塾は?」 「行ってないって、知ってんじゃん」 「だから、春休みくらい、短期で行けって、言ったんじゃん」  隼のものまねをしてやる。義弟はケケケと憎らしげに笑った。こいつには、秀才と呼ばれる人たちの爪の垢を、煎じて飲ませてやりたい。 「美咲はどうなのさ。大学の第一志望、決まった?」  父の上目遣いと、母のあからさまな視線が向けられる。 「まだ」 「美咲は俺と違って、自由に動く手足があるんだからさ」  隼はカカカと笑いながら、自分の右手を擦った。その手が突然、痙攣し出す。  隼が左手でグイッと押さえつけた。  右手だけが意思を持ったように暴れている。  いっこうに収まらない事態に、父が隼の名前を呼んだ。 「ちょっとちょっと、ビビんないで下さいよ。いつものことじゃないっすか? それともさっきのテレビを思い出しちゃいました? でも残念、こっちは怪奇でも、なんでもないですよ」  言いつつ、隼が台所を飛び出ていく。母が口を押さえて俯いていた。  美咲は電磁波を出して回っているレンジを止め、カップを出した。
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