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だから、私は瞼を押し上げた瞬間の隼が嫌いだ。そこにいる、と期待していたものがいなかったときの人間の絶望は、とても痛い。
隼が目を開ける。私を見て、その茶色い瞳を信じられないという風に揺れ動かし、ああそうだった、とでも言わんばかりに視線を外した。
「おじさんたち、引いてたろ?」
「いいかげん慣れるでしょ」
隼はのっそりと起き上がり、私の手からカップと爪楊枝を奪った。
「嘘つくな。美咲のくせに」
私は悪態をつく義弟の頬を抓り上げた。
「いて! 放せ! 牛乳が零れるって! おい、馬鹿美咲!」
「誰が馬鹿だ? 誰が!」
義理の姉弟だというのに、私たちの会話にはその手の色気がない。
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