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 伊坂隼が、私達の家にやってきたのは三か月前。もともと隼の母親と私の母が親友同士であったため、母は隼のことを赤ちゃんの頃から知っているらしい。  だからか、隼の母親の棺の前で、離婚をしていた父親も含め、彼を引き取る引き取らないと、親戚の大人達がしぶっていたとき、「私たちが育てます」と名乗りをあげたのが、母だったのも、そういう過去の縁からして言えば、頷けた。  けれど、母が、そして私と父が、隼の持っている病気について知ったのは、隼が家に来て二週間が経った時だった。  隼の病気に名前はない。不随意運動という病気に病状が似ていると医師は言ったが、前例のない病だと頭を抱えていた。原因不明、完治するかも不明、特効薬もない。  そんな、ないないだらけの病気に、隼の母は殺されてしまった。  死因は、首を絞められたことによる窒息死だった。  幸いにも、そのとき、隼には意識がなかった。  彼の右手が勝手にしたこと。他人から見たなら犯人は隼になるはずがない。でも、隼の右腕には、隼のお母さんが苦しくて足掻いた痕がくっきりと残っていた。それを隼は私達家族に見せ、 「俺が殺したんです」  そう告白した。隼は自分の病気について話をし、私達は半信半疑で聞いていた。 「ここに来る前に言えばよかったんですが、すみません」  隼は泣かなかった。時折、疲労したように目尻をピクリと動かしている。  一介の会社員の家が、一瞬で裁判所になっていた。  初めに耐えられなくなったのは、父だった。 「それでどうしたい? 警察は取り合ってくれんだろうが、一応行ってみるか?」  あなた、と母が非難の声をあげる。
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