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父は母を手で制した。
「隼君、いや、隼。僕達はもう家族だ。君が嫌だと言っても、もう養子の申請をさせてもらった。隼が黙っていてくれといえば黙るし、警察で、今、僕たちに話したことを伝えたいというのなら、僕は警察まで付いていこう。警察へ行きたいか? それとも」
「警察へ、行きます」
隼は俯いたまま、言った。
あの日、隼は一度も顔を上げなかった。私達は隼を警察まで送り、父が年配の警察官に事情を説明した。だけど、父の言う通り、彼は聞く耳を持たなかった。
だから、本当なら、隼はもう二度と警察へ行かずに済んだ。未成年だし、記億はないし、証拠も存在しない。罰せられないはずだった。
それなのに、隼は何度も警察へ行くことになった。あの男のせいで。
「何、考えてんだ?」
隼が爪楊枝で持ち上げた膜を、唇で噛み切る。
「別に」
頬杖をついたら、流し眼をされた。
「黒田のことか?」
嘘じゃなく、顔が歪んだ。
「美咲は、あの変態が好きだもんな」
「冗談」
大っ嫌いだ。あんなシンパやろう。
「そっ? 俺は大好きだけどね。黒田もあの派閥も」
隼が微笑む。唖然とした。
「あいつらは俺に罰をくれる。それも確かな罰を」
窓の外では、太陽が緩やかな光を放っている。電線に一匹の鳩がいた。その瞳に私と隼が異様なほど、はっきりと映っていた。
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