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「いいかいアキヤ。アズハルはボクの許しがない限り声をかけてこない。黙っていれば絶対にバレないから」
サシャムが言うことには驚いたが、国ごとの習慣の違いというのもある。
そんなもんかと、
「できるだけしかめっ面でね」
サシャムにもらったアドバイスの通り、眉間に皺を寄せながら、部屋から出る。
すると、サシャムの洋服を身にまとった秋哉に、アズハルを始めとした大人たちが、頭を垂れてさっと道を空けた。
『おおーっ!』
これまでされたことの無い丁寧な対応に、秋哉は内心舌を巻く。
同時にイタズラ成功を目の当たりにして、笑いをこらえるのに必死だ。
本来はここで、サシャムが後ろから飛び出してきて、アズハルたちにアラビア語で声をかけ、混乱させる手はずになっていた。
日本人のはずの秋哉がいきなりアラビア語を話せば、アズハルたちはびっくりするはずだ。
だけど、
「……」
いくら待っても、サシャムは出てこない。
「……?」
振り返ってみたが、さっきまでそこにいたはずのサシャムの姿は、どこにもなかった。
『あれ? サシャムのやつ、どこに行った?』
キョロキョロと目で探すが、ピタリと目が合ったのはサシャムではなく、上目遣いにこちらを睨んでいるアズハル。
『ひえぇぇぇぇ、怒られる!』
秋哉はおののいたが、怒鳴られる代わりにすっと手を出されて道を示される。
秋哉は戸惑いながら、促されるままに足を前に出した。
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