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秋哉が僧衣でもある黒い托鉢の衣装に身を包み、枝にほころび始める蕾に、なにげなく目を留めれば、
「ほぉーっ」
そのたたずまいに周りから感嘆の息が漏れた。
彼の普段の態度はガサツで、口を開けばデリカシーのない乱暴な言葉遣いしか飛び出してこない秋哉だが、黙って立っていれば、美術館に飾られている彫像のように美しい。
均整のとれた若々しい体躯。
目鼻立ちのはっきりした凜々しい顔立ち。
特に今日のように黒を主体とした荘厳な衣装に身を包み、口を閉じてさえいれば、まるでこの世の奇跡を目撃してしまったような容姿をしている。
柔らかそうな黒髪やあたたかな眼差しには、どれだけの慈愛が秘められているのか。
だがそれは、
「なぁおい! 托鉢って、すぐ食えるもんとか貰えんのかな?」
……秋哉が口さえ開かなければ、の話だ。
「アキお前……、さっき昼メシ食ったばかりだろーし」
同じクラスで同じ班の斉藤鉄平、テッペーが呆れたように言えば、
「だってあんな葉っぱ、腹の足しになんかならねーよ」
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