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そしてアズハルは、サシャムを迎えるために先行してこの寺に来ていた。
そこで秋哉を見かける。
あまりにも、秋哉は王子のサシャムにそっくりだった。
アズハルは驚いて、秋哉を引き止めたというわけだ。
もちろん、王子がひとりで先に寺になんかいるわけがないのだが、もしも本物のサシャム王子だったら大変なことになる。
すぐにサシャムの所在を確認しようとしたのだが、あいにくこの寺は山奥の修行寺で、携帯の電波が届かない。
アズハルの電話は、サシャムの側近と繋がらなかったのだ。
だけどーー、
「本当に申し訳ありませんでした。ミスターキスギ。そしてこの後の予定はどうでしょう」
秋哉はサシャムではなかった。
大の男が、申し訳なさそうに何度も頭を下げるので、秋哉は、
「別にそんなに謝らなくてもいいって。それにここで、その王子さまを待てって言うなら、ちゃんと待ってるしさ。
だから頼むから、そのミスターキスギって呼び方はやめてくれ。オレはあんたらから見たらただのガキだし、こんなとこアニキたちにバレたら間違いなくぶっとばされる」
くったくなくそう言うと、アズハルはやっぱり目を見張り、そしてゆるやかに微笑む。
それから、
「ならばお言葉に甘えて、そうさせていただきましょうアキヤ。アルハムドゥリッラー」
不思議な響きの言葉を呟いて、胸に手を当てた。
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