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しかし、車に乗せられて連れて来られたのは大使館ではなく、空港だった。
「おいおい、まさか、まだ諦めてねーのかよ」
顔色を青くして言う夏樹に、
「いーや、だいじょーぶだろ」
あっけらかんと答えるのは秋哉。
そして空港のプライペートロビーでサシャムの姿を見つけると、
「おーサシャム。見送りに来てやったぜ!」
秋哉は屈託なく手を振る。
「アキヤ!」
椅子に座っていたサシャムはパッと腰を浮かし、こちらに駆け寄って来ようとするが、秋哉の背後に春一の顔を見つけて、ピタリと足を止める。
秋哉との距離を保ったまま、
「ホントよく来てくれた。会えて良かったよ。アキヤの怪我のことが気になって、ボクだけ帰国を遅らせてもらったんだ」
そういうサシャムの後ろにはアズハルが控えている。
アズハルも春一とおそろいのように、肩から三角巾で腕を吊っていた。
しかしアズハルの他には、怪我をしたボディガードの姿は見えず、今朝は別の黒服たちが、サシャムと秋哉を遠巻きに見守っている。
ボディガードの数は無限なのだ。
「アキヤ、傷は痛むかい?」
サシャムに聞かれて、秋哉は視線を物騒な黒服どもから、サシャムに戻した。
サシャムは眉間に皺を寄せて、本当に心配そうに秋哉をのぞき込んでいる。
秋哉はサシャムの視線の先の、ハチマキのように巻かれた己の頭の包帯に手をやると、
「こんなの何でもねーって。もう全然平気だ」
ニカッと笑ってみせる。
距離を保つサシャムに自ら近づいて行き、
「オレは大丈夫だから、サシャムももう気にすんじゃねーよ」
「……アキヤ」
パンパンと肩を叩かれ、サシャムはホッとしたように頬の力を緩めた。
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