アラビアンナイト

95/98
前へ
/100ページ
次へ
しかし、車に乗せられて連れて来られたのは大使館ではなく、空港だった。 「おいおい、まさか、まだ諦めてねーのかよ」 顔色を青くして言う夏樹に、 「いーや、だいじょーぶだろ」 あっけらかんと答えるのは秋哉。 そして空港のプライペートロビーでサシャムの姿を見つけると、 「おーサシャム。見送りに来てやったぜ!」 秋哉は屈託なく手を振る。 「アキヤ!」 椅子に座っていたサシャムはパッと腰を浮かし、こちらに駆け寄って来ようとするが、秋哉の背後に春一の顔を見つけて、ピタリと足を止める。 秋哉との距離を保ったまま、 「ホントよく来てくれた。会えて良かったよ。アキヤの怪我のことが気になって、ボクだけ帰国を遅らせてもらったんだ」 そういうサシャムの後ろにはアズハルが控えている。 アズハルも春一とおそろいのように、肩から三角巾で腕を吊っていた。 しかしアズハルの他には、怪我をしたボディガードの姿は見えず、今朝は別の黒服たちが、サシャムと秋哉を遠巻きに見守っている。 ボディガードの数は無限なのだ。 「アキヤ、傷は痛むかい?」 サシャムに聞かれて、秋哉は視線を物騒な黒服どもから、サシャムに戻した。 サシャムは眉間に皺を寄せて、本当に心配そうに秋哉をのぞき込んでいる。 秋哉はサシャムの視線の先の、ハチマキのように巻かれた己の頭の包帯に手をやると、 「こんなの何でもねーって。もう全然平気だ」 ニカッと笑ってみせる。 距離を保つサシャムに自ら近づいて行き、 「オレは大丈夫だから、サシャムももう気にすんじゃねーよ」 「……アキヤ」 パンパンと肩を叩かれ、サシャムはホッとしたように頬の力を緩めた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加