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そこへ、
「今日はキミの見送りってことでいいんだよね」
秋哉の背中からぴょっこり顔をのぞかせたのは冬依だ。
冬依の隣には、手をつないだ鈴音もいる。
春一と夏樹もいて、今日は、来生家一家が勢揃いしている。
もう二度と、秋哉をひとりで危険な場所に赴かせることはない。
黙っている来生家の中で、冬依だけが遠慮なく口を開く。
「本物のアラブの王族ってのを一度見てみたくて来たんだけど、たいしたことないんだね。まるっきり普通の人みたいにみえる」
実は冬依は怒っている。
自分だけ知らないところで問題が発生し解決してしまったことが気に入らない。
その原因が、目の前のこの皇子だということも気に入らない。
「ちょっと冬依くん――」
さすがに冬依を諫めようとする鈴音だったが、サシャムの背後にいたアズハルから厳しい眼差しで睨まれて、キュッと口をつぐんだ。
ジェイド国の人々は、目の力が強すぎる。
来生家の兄弟たちも、別の意味で破壊力は抜群だけれど、睨まれるのはやっぱり怖い。
「……」
つい、ぼおっと関係ないことに思考の翼をはためかせてしまう鈴音に代わって、秋哉が、
「サシャムはまだ成人してねーんだ。仕方ねーだろーよ」
口を挟んできた。
「サシャムも大人になれば、ちゃんと王族の威厳ってやつが出てくるさ。今はまだ修行期間。オレたちも一緒だろう。そのために毎日勉強してんだ」
偉そうなことを言う。
「秋兄、勉強なんかしてないじゃないか」
とっさに憎まれ口を叩く冬依だったが、秋哉の発言の中に、サシャムを庇う内容があったことが、ますます気に入らない。
『秋兄が一番、被害を受けたクセに』
どこまでも人のいい秋哉のことを、冬依はキロンと睨む。
「キミもさ、秋兄じゃなくて、ボクを誘ってくれれば良かったんだ」
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