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サシャムは秋哉に向けた笑顔のまま、今度は冬依に向き直る。
そしてうやうやしくお辞儀をした。
「せっかくの申し出ですがトーイ。キミを我が国には連れて行けません。ボクは――」
そこでチラリと、後ろに立っている来生家の長兄組、春一と夏樹の顔を盗み見る。
「これ以上、あなたの一族と戦う力を持ってはいない」
ジェイド国の王族が、はっきりと敗北を口にする。
ジェイドの風習を知る者にとっては、それは大変に不名誉な発言だ。
アズハルが慌てたように目を見開く。
でも同時にサシャムの言葉は、
「秋哉を完全に諦める」
という明言でもある。
ここにきて来生家の長兄ふたり、ずっと緊張してきたのを、やっと胸をなで下ろすことが出来た。
「ボクは、ひとりでジェイドに帰るよ」
ニコリと笑いながら告げるサシャムは、どこか吹っ切れたように見える。
それからサシャムは冬依に、
「アキヤとも晴れて兄弟になれる、すごく魅力的なお話でしたが」
「――へ?」
「残念ながら、ボクの第7皇子という身分では、外国人で異教徒の貴女は側室としてしか迎えられないのです。アキヤの大切な妹君を第二夫人になんて、絶対に許されることではないですから」
「――は?」
「だから、ごめんなさい」
丁寧に頭を下げた。
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