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「お願い一度でいいの抱いて!」
「此処俺のオフィスだぞ、お前ひょっとして相当な好きもの?」
さあどうしたものだろう、夜のオフィスにてあるまじきコトが行われようとしている。警備員がいつ巡回に来るかもわからない、社員が忘れ物を取りに来ることだって考えられる、危機感溢れる中で大胆に。
「そんな事の為に俺の仕事が終わるの待ってたのかよ」
「だってこうでもしないとわたしを見てくれないと思って……!」
「へーえ、それはそれは」
明日からまた電話の呼出音やキーボードを打つ音が飛び交うのだろうけど、オフタイムのオフィスは物騒なほど静か。次第に膨れ上がる吐息と、スーツ生地の擦れる音が、こそばゆく五感を撫で上げる。
「待ってはじめにキスとか」
「何を今さら、キスをしに来たってわけでもないんだろ」
ひとを詰るような口ぶりに思い掛けずカァッと頬が熱を持った。
──このオトコ据え膳食う気満々。そんなに簡単にスイッチが入るものなの? こんなふうに迫られてしまえば私なんて一溜まりもない。
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