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「真山さんネクタイ緩め──きゃ、まるで野獣」
「野獣ねえ……、気に食わねえな」
途端、野獣が獲物をデスクに押し倒した爆音に驚き、ぴょんこお尻が浮く。そして私へと迫り来るものたちに恐怖すら抱く。
「(やめてそれ以上踏み込んで来ないで。足! 足! 足ぃいい!)」
お相手の男性は真山──ナントカさん。下の名前は知らない。個人的に付き合いのあるひと以外、会社では苗字しか呼び合わないから。
真山さんと言えば、我が社でいう色メン御三家の一人であり、彼においては野獣と呼ばれている。餌なる獲物の骨の髄まで吸い尽くすから〝野獣〟。
さすがに同部署は控えているようだが、社の女殆どに真山さんの手垢がついてるんじゃないか、そんな噂が出回るくらい肉食なんだそうだ。
不思議と痴情の縺れなどの噂は耳にしないものの、火のない所に煙が立つはずはない。にも関わらず、不動の〝抱かれたい男社員No. 1〟。
居るんだよね、何でもかんでも要領いい人って。
真山さんはソレか、と、羨ましさ増量で売上グラフを睨み上げる。赤いビニールテープで示された契約件数の山は暗くとも十分目に届いた。
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