踏むなキケン猛獣スイッチ

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 と、プチ嫉妬していたのも束の間で、「どうぞ」の声とともに部屋の扉は開かれた。  肌寒い──玄関に一歩踏み入れた瞬間まず感じたものはこれだった。  仕事でお客さんに販売物件を案内した時思う。高級マンションであっても、家具がなくただだだっ広く、生活感という温かみのない部屋は体感温度が物凄く低い。  この部屋もそう。部屋の主に続き奥へと進んでも、引っ越して来たばかりかと疑うほど家具が無いのだ。  リビングには間接照明とソファだけ、隣接した部屋にはベッドだけ。照明一つ灯らない暗がりでもハッキリわかるくらい閑散としている。 「あの、この部屋シンプルすぎやしませんか……セカンドハウスとかです?」 「まさか。此処に癒しは求めてないから」  普通、家が一番癒されるものじゃないの? と首を傾げはしたが、踏み込んで聞いてはいけない気がして、障害物のない部屋を一気に突っ切り一面の窓に飛びつく。  チラチラ断続的に光を放つ都心のネオン、オフィスビルやマンションの溢れ灯。これらを地上37階から見下ろしていると、宝石が敷き詰められた宝箱の上に立っているかの心持ちになる。
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