14章 闇の主の粋な計らい

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やる気を起こした民達はその日早速畑に戻り、真っ暗になるまで作業に没頭した。 畑が蘇る── モーリス様の葡萄畑の改良書があるなら希望が見える── 民達の目に浮かぶはたわわに実った豊富な果実の絵。 陽が完全に落ちると皆は明日の早朝からまた作業に取り組もうと、今夜は普段よりも早く床に着いていた── 「旦那様──…有り難う御座います──」 「なんだ急に畏まって」 暗い邸の大きな窓から月を眺める── その闇の主の背中にモーリスは深々と頭を下げていた。 細身のジャケットを脱ぐとグレイは頭を下げていたモーリスの前に差し出す。 モーリスはそれを黙って受け取ると壁に掛け、窓から見える景色を振り返っていた。 真っ暗な闇に銀色の大きな月が浮かんでいる── グレイは資料の山積みになった卓を前にして椅子に腰掛けると、長い足を揺ったりと組んでいた。 グレイが娘のイザベラを引き取り、余るほどあるこの邸の部屋を民にも開放してフィンデル達と共に生活するようにと話を進めた。 家を失った民も多い為に、グレイのその案に民達はとても喜んでいた。 モーリスは静かに椅子に腰掛けて月を眺める主人を見つめた。
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