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「土が足らんらしい──…」
「──…っ…」
「お前の取引主は有らん限りに俺の土地を汚してくれた──…」
「……っ…」
「土も……それを耕す民の食料も……」
「……っ…」
「お前の食う物を削ってでも民に回すのが王の務めだろう──…違うか」
グレイは紅い瞳を見せて間近で王の顔を覗き込むと、王は大きく目を見開いたまま頷いた。
「腹を捌き…首を落とされたくなければ直ぐに用意することだ……いいな」
念を押し、グレイはそんな王の震える頬をペチペチと軽く叩き、笑みを見せると背を向ける。
朝がやってきた証拠にカーテンの隙間から白く眩しい光が射し込んでいる。
グレイはシャッと音を立たせてカーテンを勢いよく開いた。
王は急に射した光に顔を背けて腕で庇う。
美しくも恐ろしい闇の主──
その正体は陽の光を弱点とする筈のヴァンパイア。
…の筈なのに──
このヴァンパイアは陽の光を全く怖れない。
それこそ究極の不死の魔物だった──
開けた窓からグレイは朝日に紛れるように姿を消す──
王はグレイが立ち去った場所から暫し目が離せぬままでいると、やっと気を取り戻して胸を撫で下ろしていた。
城の外に停められた一台の馬車の窓に今までなかった人影がふっと移り込む──
馬車の運転席には厳つい肩のをした大きな男が座っていた。
「ヴコ、出せ──」
顔中毛むくじゃらの髭に覆われてくぐもった低い声で返事をすると、ヴコは馬に鞭を入れる。
馬車は動き出すと徐々にスピードを上げていった。
「こらっババアっ! 散らかすんじゃねえっ!」
路地の隅に置かれた缶ののゴミ箱を漁る小汚ない老婆に朝早くからそんな罵声が浴びせられていた。
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