14章 闇の主の粋な計らい

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グレイは座席でゆったり組んでいた脚を組み替えると、肘を窓に預けて外を眺めた。 「ありゃ…こりゃ駄目だ。……誰か保健所に連絡しろ──」 「身元は?」 「身元はないだろ?どうみても浮浪者だ。腐る前に回収してもらわにゃ商売に困る」 朝の人気の少ない街中で、馬車に牽かれた老婆を人々が覗き込んでは口にする── 「しかし、なんで急に飛び出しちまったかね…」 「さあな、空腹で幻覚でも見たんだろ……見てみろ、石ころを大事そうに握ってら……」 待ち人は好きに口を開くと肩を竦める。そして商売の支度だと背を向けて皆でそこを後にした……。 ────────── 「こんなに!?」 民は声を上げて目を輝かせた。ロマネの町には追加で沢山の食料や畑の肥料が運ばれてきている── 民達は改良書を手にして肥料の配合をし、町を焼かれたその半年後には立派な葡萄畑を蘇らせることができた。 「感無量か──」 「………」 背後に立つ主人の声がそう語り掛けていた。 白い教会の鐘が大きく鳴らされて、真っ白なウェディングドレスを纏うイザベラを目を細めて見つめる。 モーリスは娘の花嫁衣装に目頭を熱くして指で摘まんだ。 あっという間だった── 町を焼かれ葡萄畑を蘇らせて、それから幾度も幾度も収穫を迎え…… 月日は経った── 美しく成長したイザベラをモーリスは愛しげに離れた位置から見守っている。 養父はグレイだったが父親代理はフィンデルが務めていた。
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