14章 闇の主の粋な計らい

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「モーリス様!──」 ──!? 執務室の扉がいきなりバタンと強く開いた。 息を切らしたフィンデルが扉の位置から室内を見渡す。 「くっ…やっぱり居ない──」 悔しそうに口を歪め歯を喰い縛る── 「フィンデル、居間が血だらけだっ!」 「なに!?それじゃやっぱりっ」 後から来た声が悲壮を漂わせて大きく叫びフィンデルは振り向いた。 モーリスは咄嗟に机から立ち上がり、諦めて背中を向けたフィンデルの後ろに声を出しかけた。 「無駄だ──…お前の声は届かない」 「──!?」 突然、背後から囁かれた低い声音にモーリスは振り返る。 後ろには我が主、闇の魔物が姿を見せていた。 「今、我々が居る空間は歪みの狭間にある──…ここにあってここには存在しない──…お前の声ももちろん姿も人間には見えん」 「──狭間…」 グレイは呟くモーリスに頷いた。 二人で向かい合っていると遠くから声がしてくる。 「おい、お嬢様は無事だ──!」 「なにっ!?ほんとか!?」 嬉しそうな声が廊下に響く。駆けていくフィンデルの足音を聞きモーリスは椅子に気が抜けたように腰を落とした。 そうだ… 娘は一人ではない ロマネの民が町を焼かれ我が身の大変な時にこうやって駆け付けて来てくれた── モーリスにとってこんなに胸を締め付けられたことはなかった。
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