14章 闇の主の粋な計らい

3/19
72人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
・ モーリスは手をくみ額に充てて頬を濡らした。人ではなくなったモーリスが初めて流した涙が机に染みをつくる。 「泣いてる暇などお前にはない──…」 「───」 「娘が大事ならお前は直ぐにでもこの町を再建せねばならん」 「──…ええ、わかっておりますとも」 「ならば急げ……人間の命は我ら魔物よりも遥かに短く儚い──」 「──…っ…」 「それこそ瞬きをする間もないほどに──だ…」 「………」 グレイの言葉にモーリスは口を閉じ机を見つめた。 暫し動きを止めたモーリスが書類を処理し始めた姿を見届けるとグレイは静かに執務室から出ていく。 イザベラの居室へ向かうと、無理矢理起こされたイザベラを泣きながら抱き締めるフィンデル達の姿があった。 イザベラは寝惚けまなこで大の男達が大泣きする姿をぼぅっと見つめている。 「みんな誰に怒られちゃったの?」 何も知らない無邪気な問い掛けにフィンデル達は益々涙が溢れ嗚咽した。 モーリス様はもう居ない── この地を潤わせた葡萄畑は荒らされ町は焼かれた── 民達の生活が苦しくなるなか、この地の領主を亡くしいったいどうしていけばよいのだろうか── フィンデル達は唯一頼れる人を失い涙に暮れてこのロマネの町の行く末を愁(うれ)いた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!