14章 闇の主の粋な計らい

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・ 辺りもそれに釣られたようにざわめく。 グレイは頷いた。 「如何様にも──…私はこの地の領主モーリスとは親しき仲だ…」 「──…っ…」 モーリスと聞いてグレイを見つめていた民達の目に幾分かの安堵が窺える。 グレイは緩い笑みを微かに浮かべた。 モーリスの存在はそれほど迄に民に認められ頼りにされてきた証が見て取れる。 グレイは一枚の文書を広げて見せた。 「亡くなる数日前にモーリス自身と交わした契約書だ──…彼はもし、自分の身に何かあったらこの地を継いで誰にも壌土せぬようにしてくれと判を押しこの契約書を私に渡した…」 「………」 「彼との約束はこの地と民を守ること──…そして、一人娘…イザベラが成人するまでの養育──…彼の亡き今はこの契約書が遺言となった…」 「……っ──」 民はグレイの言葉にゆっくりと目を見開いていく… グレイは分厚い書物を手にして見せた。 それに民はハッとした。 「彼が私に託した葡萄畑の改良書──…荒れた地を耕す手順も事細かに記されている──明日からは急ぎで作業に取り組んで頂きたい」 グレイは語った口端をゆっくりと上げて民を見つめる。 目の前には息をのみ、見開いた瞳に涙を浮かべる民の希望を取り戻した表情が溢れていた。
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