第二話 妻のたしなみ

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第二話 妻のたしなみ

「おはよう、あなた」  奥様、レティシア様は穏やかに旦那様、デイビッド様に微笑まれます。  それはまさに、春の陽ざしのように見る者を柔らかく、温かい気持ちにさせるような笑顔でございます。 「おはよう、レティシア」  旦那様も優しい笑みを浮かべ、奥様にお返事なさいます。その笑みは本当に奥様が愛しくて堪らない、と言うお気持ちが滲み出ており、思わず、見ているこちらが赤面してしまう程でございます。  あれからレティシア様は何日か塞ぎこんでおられましたが、覚悟を決められたようでございました。 お母様に教えられた妻の心得を、しっかりと胸に刻みレティシア・グレイからレティシア・スペンサー になられました。  早いもので妻となられてもう半年を過ぎましたが、旦那様を支える良き妻ぶりが遺憾なく発揮されており周りからの評判も上々でございます。旦那様も鼻高々でございましょう。  奥様の、マナーから語学、ピアノ、お料理、絵画、馬術等から世界情勢まで、驚くべき程の深く幅広い知識。されど決して出過ぎず、夫をさり気無くフォローし、あくまで控えめな態度に、旦那様は改めて惚れ直したご様子です。  あまりに完璧過ぎると男性は息が詰まり、安らぎを求めて他の女性を求めたりする事はよくある事でございます。 ですが奥様は、旦那様とお二人でお過ごしになられる時はその……何と申しましょうか。  旦那様に甘えるのがお上手なのでございますね。 されどそれは、姑息に計算された甘えではなく、自然体のものなので旦那様はそんな奥様が可愛くて愛しくて仕方がないご様子です。  奥様も社交の場では気をはってらっしゃいますが、旦那様のお二人になるとホッとされ、素のままのご自分が出せるのでございましょう。  とにかく、周りもほのぼのと幸せな気持ちにさせるようなお二人でございました。 ……あのような事があるまでは。  時に神は、無慈悲で非常に残酷な事をなさる。
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