第一章 ゴム大好き

4/7
前へ
/38ページ
次へ
 そんな正義感あふれる俺だが、生憎、腕力がねえ。不良が小学生をカツアゲしたところを目撃しても手も足も出ない。この無念を理解して欲しい。  だれだって好きで見てみぬフリをするんじゃねえ、実力がねえからするんだよ。  え? 偽善者? あまいね、百%善意で生きてる奴はいねえって! そりゃ少しは悪さもやったさ、修学旅行のときにバスガイドのオネエサンの尻を触って泣かせたこともあったっけ、名乗り出なかったので、クラス全員を巻き添えにして三時間も一緒に正座をしたもんだ。  満員電車やバスで触れた、バスガイドのお姐さんをはじめとしたお尻の感触は今も、この黄金の右手にメモリーされている。あの頃はがむしゃらだったなぁ。    あっ! 今は更生してやってねえから、性犯罪なんて卒業してるからよ!  だが良心なんか痛まない。万引きの常習犯とか、暴走族でワザと新婚の家の前で騒音をたてて流産させたりとか、ろくでもない悪党ばかりだったんだよ、いや、本当だって!    ちなみに不良の世界ではケンカが弱ければ、女の子に相手にされない。  厚化粧の魔女みたいなメイクで、歯なんかタバコのヤニで黄色かったが、思春期のモヤモヤに苦しんでいた俺からすれば、そんなのでも貴重品だった。ま、はっきり言って、モテる野郎に嫉妬して、性犯罪でモヤモヤを発散していたんだが――  そんな高校時代が瞬く間に過ぎ、俺より頭がいい連中は沢山いたのに、「どうせ、がんばってもたいした人生を送れない!」と、自分勝手に絶望し、羊みたいに大人しく学校の担任が推薦する工場とかに就職していった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加