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こうして俺は料理人になるのを拒否して更生したのだ。
目指したのは文学部さ。
経済学部や法学部なんかより入りやすいし、(どうせスーパーの店員が関の山)と、考えていたからだが、なら、なんのために入学したかと言えば《自分探し》さ。よく漫画やアニメにあるじゃんか、『こ、こんな力が俺に!』ってやつ、アレを期待したわけだ。
さて大学生になったものの、教授の講義は退屈そのもの、語学なんてちんぷんかんぷんで、むなしい大学一年目を過ごすうち、あっという間に大晦日になっちまった。
年末の大掃除で、雑巾で床の間を掃除していると、高校時代の親友、佐奈山勇蔵(さなやまゆうぞう)に電話で呼び出された。
奴とは高校二年からの付き合いで妙にウマが合った。
ちなみに佐奈山は俺が密告の常習犯だったのを知らないし、気のいい奴だったのでノーマーク。まあ俺だって友達は選ぶ。
奴は就職して、電化製品の工場で働いていたが、この前、電話で『針金を巻く機械で指を飛ばした先輩がいた』と、暗い声をだしていたっけ。
受話器を持つと、奴は突然、こう言った。
「おい! 初日の出を拝みに行かないか?」
どうせ大学は休みだし、夜は年越しソバを食うだけだ。
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