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「アンナさん。私ね、あなたに一つだけ嘘をついたの。気づいていたかしら」
結婚をすると決まった時、どうしてそんなに結婚が嫌なのかと言われた時。私はとっさに嘘をついた。「自分が誰かの奥さんになれる自信がないから」と、いかにもそれらしい嘘を。
それを彼女は疑うこともなく聞いてくれたけれど。
「私、貴女と親友だなんて思ったことは一度もないんです。誰よりも近しくて、誰よりも愛しくて、誰よりも恋い焦がれていた。それは親友に対して抱く感情なのかしら。夫にさえここまで劣情を抱いたこともないのに」
本当はね。アンナさん。私、貴女と生きたかった。貴女の隣にずっと立っていたかった。テレビや新聞で貴女の姿を見るたびに、どうして私はその場に居られないのだろうかと恨んだのよ。でも「親友」として応援しないといけないって、ずっと自分に言い聞かせてきた。
でもそれも、今日でおしまい。
「ごめんなさいね、アンナさん。私、本当はずっと、貴女のことを」
どうしようも無いほどに、愛していたんです。
涙で詰まった言葉はもうそれ以上形にならず、喉の奥に引っかかったままへしゃげてしまった。彼女が亡くなって初めて流した涙は優しく吹き付ける風に飛ばされて、ちょうど百本目の薔薇に降り注いだ。
底抜けに明るい太陽が、ただ静かにひとりぼっちの私を照らし続けていた。
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