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「帰らないの?」
片桐君は、下足場の前に長机とパイプ椅子を2つ置き、そこで何かをメモしていたが、私が声をかけたので、その手を止めた。
「これは、喜久井君ではないか。
小生は、突然の降雨に、我が校の生徒はどのように対応するか、計測しているところである。」
ウルトラマンセ○ンみたいな青いフレームの眼鏡を直し、変にどや顔。
「左様でございますか。」
私はさり気なく隣に座った。
片桐君は、二重まぶたで黒目がち、肌はきめ細かくて、背は平均より少し高く、優秀な素材の持ち主だが、その奇天烈な青フレームの眼鏡とボサボサの頭が、素材を残念に仕上げてしまっている。
統計を取ることが趣味で、至るところで何かを数えている奇人。
しかし私は、その素材に惚れたアホである。
愛の力があれば、片桐君が異常であろうと、通りすぎる生徒たちの、私達二人に向ける視線が痛かろうと、気にならない。
片桐君はメモを計算しだした。
「今のところの統計だと、
親族が迎えに来る17%
走って帰る29%
傘保有53%
だな。」
「ほほう。おもしろい統計であるな。傘は相合傘を含むのかね?」
「ああ。傘枠の25%は相合傘で、意外に高い。しかし、それが男女だと、25%中20%になる。つまりたった2組だ」
「して、片桐氏はどれにふくまれるんだい?」
「どれにも含まれない。雨が止むのを待ってる。」
「そうか、つまり雨宿りであるな?ならば、相合傘で帰る生徒の比率を共に上げないかい?」
私は不敵に笑って、折りたたみ傘を見せた。
真っ赤になる片桐君。
「おい、お前ら!こんなところにテーブルを出したら、邪魔だろうが!」
綾津先生が怒ってやってきた。
「傘を拙宅に忘れてきたがため、雨が止むのを待っておりました。」
動揺をなんとか抑え、いつも通りを取り繕う片桐君に対し、げんなりする先生。
「やめてくれ。普通に待てよ。
特別に傘を貸してやるから、とっととそのテーブルと椅子を片付けて帰ってくれ。」
無念。相合い傘で帰る生徒の比率は上げられなかった。
[終]
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