夏のビーチで

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今日は高校の部活の仲間と海に来た。 しかし、夏休みの整備された海水浴場というのは人が多い。 「早く泳ごう!」 みんな海に走りだす。 私も泳ごうと思いつつ、視線を逸らすと、目に入ってしまった。 小さなパラソルの下に、テーブルセットを設置し、監視員ばりに辺りを見渡し続ける怪しげな男。テーブル上に並べたカウンターを時々カチカチ言わせている。 「これは片桐氏。暑い中、お勤めご苦労様です!」 「喜久井君ではないか。ここで会うとは奇遇だな。」 この怪しげな男は、私のクラスの統計マニアの片桐君だった。 ボサボサ頭にウルトラセ◯ンみたいな奇天烈な眼鏡で、一見非常に残念だが、磨きがいはある。 「今日は、ビキニの女の子を数えてるの?」 「何を不埒な!僕はこの一週間、遊泳客の構成を調べているのだ。」 「失礼いたしました。私もパーカーの下はビキニだから、数に入れて欲しかったの。」 「喜久井君は、バドミントンの仲間と来たんだね。」 「うん、今日は部活休みなんだ。」 片桐君は私の言葉を無視した。 黙って砂浜に立っていると、ジリジリ蒸し暑い。 「ちょっと泳がない?」 私はパーカーを脱ごうとする。 「僕は泳げないからいい。」 「嘘だ。男子が『片桐はあのなりで泳ぎはトビウオ級だ』って騒いでたよ。」 「喜久井君は喉が渇かないかね。飲み物を買ってくるから、その間、代わりに数えていて欲しいのだが。」 「わかった。ラムネを頼むよ。」 こんなことをして、何が楽しいのかわからないけど、とりあえず、家族連れが新たにやってきたので、カウンターをクリックした。 「買ってきたよ。」 「ありがとう。あ、蓋が開いてない。これ苦手なんだよね。」 力を入れて、瓶の蓋のビー玉を落とすと・・・ 「ああ、やっちゃった。」 瓶からあふれたラムネがパーカーにこぼれた。 おもむろに、パーカーのジップに手をかけると、タオルが押し付けられた。 「使うといい。洗いたてだ。」 「ありがとう、ごめんね。」 片桐君は、もう一枚のタオルで、顔を拭っていた。 伏せがちな目は、まつげが長くて綺麗だ。 つい見とれそうになったところへ、連れ達の私を呼ぶ声。 「じゃ、私、みんなのところに行くから。」 私はパーカーを脱いで、海に入った。 私は片桐君に手を振ろうと思ったが、彼はこちらは見てくれてはいなかった。 [終]
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