第一章・続2

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さて、此処で前菜の料理が運ばれて来る。 マグロのカルバッチョ的な、野菜の多いサラダを食べる木葉刑事は、ふと窓を見て。 (仕方無い、か。 どうせなら・・強引にでも解らせてやろうかな。 悪足掻きは、もう通用しないってことを…) 詩織の未来のため、彼女を預かる越智水医師の家族の安全を考慮し、遠矢にもう後が無いことを解らせようと考えた。 では、どうするのだろうか。 黙る木葉刑事の静けさと、セレナーデ調の曲が不協和音をもたらした。 (ん、・・え?) ふと、違和感を覚えて顔を前に向けた里谷刑事の視界に、木葉刑事の眼を映した時。 木葉刑事の眼に、明らかな殺意にも似た鋭さが浮かんで居るのを見つけた。 (・・・その眼、何?) 顔を込みで見るならば、一見するにボンヤリして居る様子だが。 その眼に在る虚無感と同居する冷めきった光は、一体何か。 空洞感が在りながらも、何処が怖さが漂う。 一瞬、背中に寒気を感じた里谷刑事は、ワインに逃げて。 (この彼を怒らせたら、悪人ほどヤバいんじゃない?) 木葉刑事が何か、遠矢を追い詰める手段を持って居る様な気がして、動物的感覚から寒気を覚えた里谷刑事。 そして、それは後日に解る。 木葉刑事はあの悪霊と戦って、只で居た訳では無い事を。 失うものが多ければ多いほどに、何かは得るモノも在るのだと云う事か…。 然し、それも束の間。 窓より視線を料理へ戻す木葉刑事が。 「そう云えば、里谷さんは刑事課に来て半年近くに成りますね」 「え? あ、まぁ~三ヶ月が過ぎたかしら」 「刑事課に来て、警護課との違いが気に成りますか?」 雑談に話が移れば、里谷刑事も口が動く。 言いたい事が山ほどあった。 友人は、一般の職業が多い里谷刑事だから、同じ職業で愚痴れる相手が居ないらしい。 9時過ぎまで、無駄話が続いた。 ま、見方を変えると、一瞬でも怖かった木葉刑事をまた見たくはなかったかも知れなかった。
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