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「ゆき~!帰るよ!」
放課後になると、隣のクラスの琴音が大きな声で迎えに来る。
「おまえ、声でっけえよ」
「そっちのクラス、終わるの早くね?」
琴音の登場に反応して、男子たちが群がっていく。
私は男子たちと琴音が喋っていると、邪魔しないように少しゆっくり目に支度をする。
「もう、ゆきってば遅い!新しくできたパンケーキのお店、すぐに行列ができるんだから」
廊下から叫ぶような声が飛んでくると、琴音の周りにいる男子たちが「あの店行くの?俺も行っていい?」「先に並んでおいてやろうか?」って、気を引きたくて口々に言う。
そんな様子を冷ややかな目で女子たちが見ていて、「毎日凄いよねえ」なんて嫌味っぽい陰口を叩く。
琴音はとにかく美人で気さくで男子に大人気だ。
だけど、裏表がなさ過ぎて思ったことを腹に溜められない性格で、正義感も手伝ってストレートにものを言いすぎるから、そういうのが苦手な一部の女子には敬遠される。
「やだよ。あんたたちが来ると、ゆきと話せなくなるんだもん」
「大丈夫、大丈夫。ゆきちゃんは琴音の隣だから!」
男子たちが嬉しそうに私の方を振り向いて、「俺たちも一緒に行っていい?」「良かったら俺ら席取りに行くよ」って手を振ってくる。
メンバーを見て、少しホッとする気持ちを感じた。苦手な彼がいなかったからだ。
「いいよ、お願い」
私はゆっくりと鞄に荷物を詰めながら、笑顔でそう答える。
「ゆき!嫌ならそう言っていいんだよ!!」
琴音が目を吊り上げているけど、私は首を横に振って「嫌じゃないよ」と笑った。
男子たち5~6人が「やった!」とガッツポーズをして嬉しそうに駆けて行ったのが見えた。
「毎日、大変だね」
隣の席からその様子を見ていた美香が小さくため息をついて、同情するような目でこちらを見た。
「そんなことないよ」
私は笑って美香に手を振ると、廊下で待っている琴音の方へ小走りで行った。
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