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「お前さん、何をしておるんじゃの?」
声を掛けられた。
気付いたら、空が白み始めてやがった。
ほんとに何時間、俺は穴なんかを掘ってたんだが。
「のう、お前さんや。一体、こんな所で何しとる?」
胸の高さまで掘った穴の中から、俺は横手を振り仰いだ。
そこに、見事なまでの白髪の爺さんがいた。
髪も長いあごヒゲも真っ白だ。
茶色い作務衣だかなんかを着ている。
陶芸家かよ。
だとしたら、見た目は人間国宝級だな。
俺はシャベルをから手を放した。
まさに「べりっ」て感じで、掌の皮が剥けて、血がにじんだ。
じんじん、ひりひり――
後から後から痛みを覚え始める。
それを見て、老人が眉をひそめた。
「わからんのう……。何がお前さんをそこまで駆り立てたのやら」
うるせぇ。
俺だって知らねぇよ。
「ともかく、その穴から上がってきなさい」
偉そうに、そう促す爺さん。
別にその言葉に従う理由もないが、従わない理由もない。
なんせ俺は、自分が今何を目的としてるのか知らねぇんだ。
穴から這い出た俺に、爺さんは真っ白な手拭いをよこした。
その手拭いを二つに裂いて、両の掌に巻いた。
これで多少はマシなった。
「お前さん、何だってまた、こんな人里離れた場所で穴なんぞ掘っとるんだ?」
だから、俺だって知りてぇよ――その理由。
「もしかして、お前さんアレか? 最近はとんと見なくなったが、アレの手合いかのう」
アレ? アレって何だ?
「ほれ、アレじゃよ。……何と言うたかのう、ひと昔前に流行ったじゃろう。アレじゃアレ……」
だからアレって何だよ。
まったく、年寄りは主語が言えなくなるから困りもんだ。
「そう、”埋蔵金”じゃよ」
埋蔵金?
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