負け犬

4/5
前へ
/25ページ
次へ
「お前さん、何をしておるんじゃの?」  声を掛けられた。  気付いたら、空が白み始めてやがった。  ほんとに何時間、俺は穴なんかを掘ってたんだが。 「のう、お前さんや。一体、こんな所で何しとる?」  胸の高さまで掘った穴の中から、俺は横手を振り仰いだ。  そこに、見事なまでの白髪の爺さんがいた。  髪も長いあごヒゲも真っ白だ。  茶色い作務衣だかなんかを着ている。  陶芸家かよ。  だとしたら、見た目は人間国宝級だな。  俺はシャベルをから手を放した。  まさに「べりっ」て感じで、掌の皮が剥けて、血がにじんだ。  じんじん、ひりひり――  後から後から痛みを覚え始める。  それを見て、老人が眉をひそめた。 「わからんのう……。何がお前さんをそこまで駆り立てたのやら」  うるせぇ。  俺だって知らねぇよ。 「ともかく、その穴から上がってきなさい」  偉そうに、そう促す爺さん。  別にその言葉に従う理由もないが、従わない理由もない。  なんせ俺は、自分が今何を目的としてるのか知らねぇんだ。  穴から這い出た俺に、爺さんは真っ白な手拭いをよこした。  その手拭いを二つに裂いて、両の掌に巻いた。  これで多少はマシなった。 「お前さん、何だってまた、こんな人里離れた場所で穴なんぞ掘っとるんだ?」    だから、俺だって知りてぇよ――その理由。 「もしかして、お前さんアレか? 最近はとんと見なくなったが、アレの手合いかのう」  アレ? アレって何だ? 「ほれ、アレじゃよ。……何と言うたかのう、ひと昔前に流行ったじゃろう。アレじゃアレ……」  だからアレって何だよ。  まったく、年寄りは主語が言えなくなるから困りもんだ。 「そう、”埋蔵金”じゃよ」  埋蔵金?
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加