負け犬

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「どこぞの大名が埋めたとかいう埋蔵金が、この山に有るだのとそこそこ昔に流行ってのう。  一時期はこぞって、馬鹿な夢見た連中が掘りに来たんもんじゃ」  埋蔵金……。  俺はそれを求めて、こんな事をやってたってのか。  だとしたらまあ、これだけ必死なのも頷ける。  けど、じゃあ、一体どんな理由で埋蔵金なんか探し求めてんだよ。  差し迫って金が必要なのか……?  あるいはもっと別の理由か……? 「ふぅむ。どうもピンと来とらんようじゃの」  何も言ってねぇのに、爺さんはこちらの顔色でそう判断を下す。 「もしくはお前さん……”途”に迷いなすったか?」  迷っただ?  そりゃあ、迷ってるだろうよ。  ここがどこか分かってねぇんだから。 「ほっほっほ! そうではない、そうではないぞ。  お前さんはきっと、”人生という途”に迷っておる。――そうじゃろう?」  ……何だって? 「こんな場所で独り、脇目も振らずに穴を掘り続けておる。  しかも、自分自身でさえ、その理由をはっきりと掴めておらぬ様子。  迷うておる、迷うておるのじゃ。  ほっほっほっほ!」  この爺さん、何を言い出しやがんだ。   「良き哉、良き哉。それもまた道じゃろうて。  惑いながらも歩む――それも立派な人生という道じゃよ」    そんな如何にもなセリフを並べ立てて、老人はこちらに背を向けた。  去り際に一度振り返り、「探し物が見つかるといいのう」なんて付け加えてだ。  探し物だ?  だから俺は、一体全体、何を探してるってんだよ。  ホントにワケがわからねぇ。
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