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「アーティファクトの守護者たるべく皇族も、今では国民の象徴に過ぎず、首相の戦いの場は、次の選挙ときておる。軍の上層部も保身に汲々する奴ばかりじゃ。わしは一人、風のアーティファクトを取り戻すべく、ずっと魔族を追いかけて来たのじゃ」
「失礼ですが、この艦に他に乗組員は・・・?」
ユキヲ艦長は、今度はちひろの似顔絵を描いています。
「大儀の無い戦いに、部下を巻き込むわけにはいかんよ。国に帰れば、国家反逆罪で・・・、国家の財産を私的に国外へ持ち出した罪で裁かれるじゃろう。それも、国があればの話じゃ。魔王が復活してしまえば、人間の区切った国など、何の意味もなさんじゃろう。わしは、罰を受けるために、戦っているのかもしれんの。
ははは、多くの敵の血を流し、多くの前途ある若者を前線に送り出してきた老いぼれには、相応しい最後じゃて」
「そんな・・・」
その時、ドアが開いて声が聞こえました。
「おじいちゃん、もうすぐ海の上に出るわよ」
メイフェア隊のメンバーが、ドアのほうを振り向いて、小さく驚きの声を上げます。
「賢者様・・・?」
ドアの所に立っているのは、大きな剣を背負った小さな少女でした。
「紹介しよう。グルメリア連邦、水のアーティファクト守護者の末裔、小梅さんじゃ。魔族を追う途中で合流したのじゃ。操艦を手伝ってもらっている・・・、ん? みなさん、いかがされたかな?」
きみぃが、小梅とユキヲ艦長を交互に見ながら聞きます。
「賢者様じゃないの?」
小梅が、ケラケラと笑い声を上げます。
「世の中には、似た人が三人いるって言うからねぇ。だけど、賢者様に間違われるなんて、あたいも捨てたもんじゃないね」
小梅は、ケタケタと笑いながら、ブリッジへ帰って行きました。後姿を見送りながら、ちひろが呟きます。
「あんな小さな体で、あんな大きな剣、どうやって使うのかしら?」
凜伽が、静かに言います。
「クレイモアの使い手、小梅。ツンドラ最強の戦士です」
「知っているの?」
「噂だけは。一度、対戦したいと思っていました」
4時間ほどたった頃、艦内に電子音声が響きました。
『警告。12時方向に輝点多数確認。パターン・レッド。魔族です。120秒後に接触します』
「ようし。戦闘モードじゃ、おばさん」
「おばさん?」ジェネラルの頬がピクッとします。
「この艦じゃよ。アントステラ。ステラおばさんじゃ」
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