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三 美女の過去には秘密あり
朝日の照らす通学路。今日もその道は、学び舎を目指す生徒達で賑わっていた。
「さーららんっ! おはよー。今日も髪キレイだねぇ」
「きゃっ。ちょっとめぐ、やめてよぉ」
「いいじゃんいいじゃん。減るもんじゃなし」
通学途中。いつものように恵は突然現れて、更紗の髪をいじくり回した。
「さららんの髪ってさ、さらさらでつやつやだよね。なんかいい匂いもするし」
「そんなこと、ないと思うけど……」
恥ずかしいのか、更紗は消え入りそうな声で答えた。
「ね、なにか気を使ってることってあんの」
「え、別に。特になにも」
『髪の長さは肩甲骨の先っぽまで』と決めて丁寧に手入れをしていることを思いついたけど、なんとなくそれは恥ずかしいので、言わないことにした。
「ふーん、まぁいいや。ところでさ」
恵は三歩前へ踏みだすと、くるっと振り返った。
「昨日の綾音せんぱいとの放課後デート。楽しかった?」
顔を覗き込みながら、そんなことを聞いてくる。
「で、デートじゃないよ。綾姉様、昨日が初めての登校だったじゃん。だから、校内を案内してあげただけだよ」
「ふーん」
にやにやと、「おもしろくなってきやがったぜ」という声が聞こえてきそうなくらい、恵は楽しそうにしている。
「で、二人はどこまでいったの?」
「ちょ、めぐっ」
「あんれー、なんで顔を赤くしてんの? さららんってば、やらしいんだぁ。あたしは単に、どこまで案内してあげたのって聞いただけなんだけどなぁ」
「んー、もぅ!」
「やーい、さららんが怒ったぁ」
「めぐのばかぁ。もう知らないっ」
ぷりぷりと怒った更紗の顔が、途端に満面の笑顔に変わった。
「綾姉様!」
遠くからでもはっきりとわかる黒い制服、長い黒髪と、端正な立ち姿。
更紗は綾音の姿を認めるなり、一目散に駆けだした。
「綾姉様。おはようございます」
綾音は身体ごとふわりと振り返り、その美しい顔に微笑みを浮かべた。
「あら、更紗。おはよう」
振り向きざまに揺れた黒髪が、朝日を浴びてきらめいている。それだけで、更紗は幸せな気持ちになれた。
「恵さんも、おはよう」
「おはようございます。綾音せんぱいっ」
やれやれ、といった感じで更紗の後をついてきた恵も、綾音の微笑みを受けて自然と笑顔になっていた。
他愛のない話を重ね、更紗は夢心地のまま、校舎の中へと吸い込まれていった。
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