二 おーい、そこのおねえさーん

8/25
前へ
/171ページ
次へ
 お昼休み。更紗と恵はいつものように、中庭のベンチで一緒にお弁当を食べていた。  季節はもう秋を迎えている。お日様が優しく暖めてくれるとはいえ、たまに吹く風が少し肌寒い。  どうしてこんなところで食べているのかというと、それにはちゃんとした理由がある。  バスケットボール部に所属していて活動的な恵は、すぐにお腹が空いてしまうらしく、更紗と違ってよく食べる。だから、お弁当箱も大きい。  あれはいつだったか、教室で食べていたころ、心ない男子に恵の大きなお弁当箱をからかわれたことがあった。恵はそれが恥ずかしかったらしく、その翌日から二人は中庭でお昼を食べることに決めた。  ちなみに、多少の雨が降っても、ここには屋根があるから平気なのだ。でもやっぱり、寒さだけはどうにもならなかった。 「ねえ、どしたの、さららん。あんた今日、なんか変だよ。心ここにあらず、ってカンジ」  先にお弁当を食べ終えた恵が、心配そうに更紗の横顔を見つめている。 「え、あ、うん……」  更紗は手の平に収まりそうなくらい、こじんまりとしたお弁当箱を抱え、呆けたようにミニトマトを箸で転がしていた。 「ねぇ、食べないの? 貰っちゃうよ」 「え、あ、うん……」  目の前でミニトマトをさらわれて飲み込まれても、更紗は生返事を返すばかりだった。 「もぅ!」  恵は怒ったように口を尖らせると、いきなり立ちあがり、遠くを指さした。 「あ、朝のおねーさんだ」 「えっ! どこどこ」    
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加