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「あの……、ゴメンなさい」
「いいのよ」
成り行きで、黒衣の女性も一緒に昼食を摂ることになった。
さっさと食べ終えてしまった恵は、手持ち無沙汰に足をぶらぶらさせている。
女性は柔らかい手つきでコッペパンを小さく千切り、優雅に口へと運んでいる。いちごジャムとマーガリンがたっぷりとサンドされた、安くてボリューム満点のコッペパンだ。
更紗は自分が飲んでしまったお茶を申し訳なく思い、自分の水筒から紅茶を注いで女性に差しだした。
「あの、どうぞ……」
「まあ、ありがとう」
手渡すときに指と指が触れあい、痺れるような、それでいて甘いような、妙な感覚が更紗の身体を突き抜けた。
「あなた、お名前は?」
女性はたおやかに微笑んでいる。更紗は耳の奥まで真っ赤に染めて、問われた言葉の意味を懸命に考えた。
(オナマエハ? どこの国の言葉だろう。もしかして、ミヤビな言葉遊びかなんかかな、並べ替えの。オナマエハ……オマエハナー、って違うよね。えーと、おなまえは――あっ、やだっ、『お名前は』だ!)
「わ、わたしは更紗ですっ。九重更紗、花園高校一年生です!」
「ここのえ、さらさ。まぁ、とても素敵なお名前ね」
「……わぁぃ」
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